月に帰らない、かぐや姫

Episode5  美しい姫君

それからケンゾーとトツ、そしてかぐやの暮らしは、とても大きく変わりました。

ケンゾーは町へ出て、豪華な着物を買い、大工を見つけてくると、トツとかぐやに優美で温かい着物をあつらえてやり、ぼろぼろで一間しかなかった家を建て替えました。新しい家はとても立派なものになり、貴族のお屋敷を少し小さくしたような規模でした。

村の人たちはあの一家に何があったのだろう、かぐやが来た頃から何か変わったねと噂していました。

ケンゾーとトツは、積極的に「おほしさま」にお祈りをしました。お祈りは星が見えている時にすることが多かったので、お祈りの場には、たいがいかぐやも一緒でした。かぐやはお祈りの力をまるきり信じていて、どうやらそれが、お祈りが叶いやすくする調味料のようなものらしいのです。

ケンゾーとトツの願いは次々に叶えられましたし、かぐやが一緒に祈る時は特にそうでした。

家の周りの畑が蘇り、まるまると太った、村のどこよりも良質な野菜が育つようになりました。また水の取り分のことで、隣の村と時折争いになっていたのですが、村長同士が創造的な解決方法を思いついて、村中の田畑に一定の量の水が流れるようになりました。ケンゾーは二度とお金に困らなくなり、願った翌日か三日のうちには、大判小判の山だったり、高く売れそうな野菜だったり、貴重なきのこだったりを見つけました。

ケンゾーとトツが豊かになっていくにつれて、村の他の人々も豊かになりはじめました。かぐやが子どもづたいに、お祈りの仕方を広めていったのです。子どもたちを中心に、村ではお祈りが流行り、みんなが次々に豊かになっていきました。

同時に、村には町からの人が多くやってくるようになり、かぐやという美しい娘がいる、という噂が急速に広まっていきました。成長の早いかぐやは、もうその頃には十一、二歳になっていました。両家の娘であれば、結婚相手がいても良いくらいの年齢です。

村から町へ、町から町へと噂は広まり、やがて美しいかぐやを一目見てみたい、ぜひ結婚相手に欲しいという男性たちが、連日ケンゾー一家の周りを取り囲むようになりました。

国の慣習に従い、かぐやの部屋には衝立が置かれ、かぐやには綺麗な金色の扇が買い与えられました。女性は顔や姿を見せびらかすことは、あまりよくないことだとされていたのです。

それでも風通しの良い家の中で暮らしていれば、外から垣間見をする男性たちにも、かぐやの姿をちらと見る瞬間があります。どこかでかぐやの姿が見えると、男性たちがどっと湧き立つ声が聞こえました。たとえそれがかぐやの後姿でも、はたまたひるがえる着物の裾だけでも、です。

やがて、特に身分の高い五人の貴公子が、かぐやとの目通りを許される運びとなりました。広い応接間の下座に、五人の貴公子が並びます。そしてその向かいに立てた衝立の奥に、かぐやが座っていました。

五人の貴公子たちは、必死に顔に出さないようにしながら、それでも内心とてもわくわくしていました。彼らは左から、

石作りの皇子

倉持の皇子

右大臣阿部のみむらじ

大納言大伴のみゆき

中納言石上のまろたり

という名前でした。そうそうたる面々です。

この場を任されていたのはかぐやでした。何を言うのも、誰を選ぶのもかぐや次第です。

かぐやがしばらく黙ったままでいたので、応接間もしんと静まり返りました。ケンゾーはそっと近づいて、衝立をにらみつけたままのかぐやに聞きました。

「かぐや、集まっていただいた方々の顔が見えないんじゃないのかね、この場所で良いのかね」

ケンゾーは身分の高い方々が家に来ていることで、とても緊張していました。さっきからあれこれと動きまわっています。

かぐやは豪華な着物も、しとやかなたたずまいも、とても板についていました。

「ええ、大丈夫よお父さん。私、五人の顔が視えてるもの」

ケンゾーには何を言っているのか分かりませんでした。

かぐやはすっと背筋を伸ばして、衝立の向こうに座る貴公子たちに語りかけました。

「私はあなた方に、あるものを探していただきたく思います。私が言ったものを探しだし、ここまで持ち帰った方と、私は結婚しましょう」

五人はおおっと声を上げました。

そしてかぐやは、五人に「探してきて欲しいもの」を告げたのです。

石作りの皇子には「仏の御石の鉢」、倉持の皇子には、不老不死になれるという「蓬莱の玉の枝」、右大臣には決して燃えないと言われる「火鼠の衣」、大納言には「龍の首の玉」、中納言には繁栄の象徴「ツバメの子安貝」を。

五人の貴公子たちは、無言のうちに顔を見合わせました。大納言が「あの、かぐや様」と言いかけます。

かぐやは最後まで聞きませんでした。

「私は今申し上げたものを持ち帰った方と結婚します」

話はそれで終わりでした。かぐやはさっと次の間へ退出し、貴公子たちも屋敷を出ていきます。

次の間に落ちついたかぐやは、心配そうなケンゾーと目が合いました。

「かぐやや、さっきの方々を怒らせてはいないだろうか? わしはあの方々のご機嫌を損ねないか心配じゃったよ」

貴公子たちの前では凛とした振る舞いをしていましたが、ケンゾーの前では、かぐやは可愛らしい女の子のままでした。

「大丈夫よ、お父さん。あの人たちは気を悪くしてなどいないし、怒らせたところで何もありはしないわ」

「ところで、なぜそれぞれに特別のものを持ってくるようにと言ったんじゃね?」

「わたしも、それは気になるわ」

貴公子たちの見送りを終えたトツが、遅れて部屋にやってきました。かぐやは不思議そうな顔の二人に囲まれて、ちょっと小首をかしげて言いました。

「私は頼んだ品物の中で、本当に本物を持ってきた人と結婚するの。私は正直な人を探しているのよ」

その目は無邪気なようでいて、内面までしっかりと人を「視て」いました。