月に帰らない、かぐや姫

Episode4  貧乏だけど

「はあ……」

ケンゾーは深いため息をつきました。

ちょうど夕暮れ時です。外で人の足音がしたかと思うと、かごいっぱいの野菜を抱えたトツとかぐやが入ってきました。

「ただいま! 見て、お父さん! こんなに野菜がとれたのよ!」

「ああ、よかったな」

ケンゾーは生返事をしました。

早いもので、かぐやは九つになっていました。子どもたちと遊び回ることもしましたが、同時にトツの手伝いも積極的にこなしています。大きくなって、かぐやはますます可愛らしい女の子になっていました。

ケンゾーはちらとかごの中を覗きました。

かぐやは大量だと喜んでいましたが、かごに入った野菜はどれも、細長く痩せたものばかりです。痩せた畑から大量に取ってきたのは、そうでもしないと量が足りないからでした。ケンゾーもトツも、かぐやにお腹いっぱい食べさせて、元気に大きくなってほしいと思っているのです。

「どうかしたんですか」

トツがケンゾーのそばに寄ってきました。ケンゾーは今日の稼ぎを見せました。

今日は、今まで集めて乾かしておいた薪を、商人に買い取ってもらう日だったのです。ケンゾーはもうけを期待しましたが、大したお金をもらうことはできませんでした。手の平に載った、錆びついた数枚の硬貨。ここ一カ月ほどの働きが、これだけのお金にしかならなかったのです。

「たったこれだけなんじゃよ。お前の着物も新しく買ってやりたいし、かぐやにも……もっと身の丈にあったものを着せてやりたいんじゃが」

二人の視線がかぐやへ向きました。機嫌よく野菜を刻んでいくかぐやは、くるぶしが完全に覗いた着物を着ています。着物の柄も年に似合わず子供っぽいものです。だいぶ前に買ってやったものを着続けているのでした。

「……仕方ありませんよ、ケンゾー。これでなんとか暮らしていきましょう」

トツも息を吐きました。

それが耳に入ったのでしょう。かぐやがぱっと振り向きました。ケンゾーとトツはびくりと肩を揺らします。

「お父さん、お母さん、どうしたの? 悲しそうな顔をしているわよ」

二人はお互いに顔をそらしました。お金が足りないなどという暗い話を、可愛いかぐやに聞かせたくなかったのです。

けれどかぐやは食い下がりました。かぐやも家事を手伝ってくれているし、なにより立派な家族の一員です。ケンゾーはかぐやの押しに負けて、悲しい現状を打ち明けることにしました。

「かぐや、どうか悲しまずに聞いてくれ。わしらの家には、お金がないんじゃ。お金がなければ、美味しい食べ物も、新しい着物も、何も買うことができない。お前に着物を買ってやりたいと思っているんじゃが……。すまんのお、もう少し待っていておくれ」

かぐやは目をぱちくりさせました。

「あら。お金が欲しいの? だったらそうお願いすれば良いのに」

ケンゾーとトツは目を丸くしました。かぐやの口調は気軽で、誰でもできることを話しているような調子です。

トツが不思議そうに聞き返しました。

「でも、頼むって……。誰に? どうやって?」

「簡単よ。おほしさまにお願いするの」

言うが早いか、かぐやは両手を組み合わせて目をつぶりました。

「おほしさま、私たちは綺麗な柄の着物を着て、立派なおうちに住んで幸せに暮らします。ありがとうございます」

それから目を開けて、きらきらした笑顔で二人を見つめました。

「ほらね。これでお金がいっぱいやって来るようになるわよ」

「……はあ」

本当に、たったこれだけのことで上手くいくのだろうか? ケンゾーとトツは互いに顔を見合わせました。

かぐやはそんな二人を見つめて、弾んだ声でこう付け加えます。

「あのね、おほしさまは私たちのお願いを聞いてくれるのよ。でも、必ず楽しい言葉でお願いしなくちゃ駄目なの。『今日も病気にならずに過ごせますように』ってお願いすると、病気の方がやってきちゃうのよ。だから『今日も元気に過ごせますように』ってお願いすると良いの」

信じることは簡単ではありませんでしたが、もしかしたら「おほしさま」は、可愛いかぐやの願いなら聞いてくれるようにできているのかもしれません。かぐやをがっかりさせたくなくて、ケンゾーは肯定的な返事をしました。

 

それから、ほんのニ、三日後のことです。

遊びに行くかぐやを見送り、ケンゾーはいつものように、山へ芝刈りに行きました。

また収穫のないままいつもの高みまで登ってきてしまいます。いつもの岩に腰かけて、いつもと同じ、トツの握ってくれたおにぎりを食べました。

そしてどっこいしょと立ち上がった時、急に思いついたのです。

かぐやを見つけた時も、こんな風だったな。

収穫が何もなくて、けれどまだ日は高くて。だからもっと上まで行ってみるかと、軽い気持ちで斜面を登っていったのでした。

ケンゾーは何かに導かれるように、ゆっくりと上へあがっていきました。

竹やぶは変わらずそこにありました。ここは特に空気が涼しくて、なんだか不思議な感じのするところです。風がさわさわと音を立てながら通り過ぎていきました。

枯草を踏みながら歩いていった時、ケンゾーはそこでびっくりするようなものを見つけたのです。

「こりゃたまげた!」

思わず声が出てしまうほどの驚きでした。ケンゾーが近づくと、そばの竹がひとりでに割れて、中から大判小判が出てきたのです! 周りに人はおらず、固い竹が風で勝手に割れるはずもありません。

気がつくと、他にも数本の竹が割れていて、中に小判がたくさん入っていました。ケンゾーはめまいで倒れてしまいそうでした。

小判が、こんなにたくさん。新しい着物を買ってやれるどころの金額じゃない。もしかしたら家を建てられるかもしれないし、しばらく仕事を休んだって大丈夫かもしれない……。

「いや、いや、さすがにこれは。誰かの落とし物かもしれないじゃないか」

現実的な理由をつけようと試みましたが、自分が自分の言葉を信じていないことは分かっていました。ケンゾーの頭の中では、先のかぐやの言葉が木霊します。

「おほしさま、私たちは綺麗な柄の着物を着て、立派なおうちに住んで幸せに暮らします。ありがとうございます」

ケンゾーは息を呑みました。

まさか、「おほしさま」が本当に願いを叶えてくれたのでしょうか? いいや、本当にほんなことがありえるのでしょうか? そういえばこの竹やぶは、自分とトツにかぐやを与えてくれた場所でもあります。もしかして、願いを叶えてくれる竹やぶなのかもしれません。

「まさか。かぐやは竹じゃなく、星にお願いをしたんじゃぞ」

ケンゾーはかぶりを振って、楽観的で突拍子もない考えを振り払おうとしました。

きっと誰かの落とし物に違いない。ここへ置いていくか、どうするか……。

辺りは薄暗くなり始めていました。大判小判の山はますます魅力的に光って、ケンゾーにすくいあげられるのを待っているように思われます。

気がつくとケンゾーは、背負っていたかごをおろしていました。そしてそれを隣に置いて、詰められるだけの大判小判を集めていたのです。

 

トツは帰ってきたケンゾーを見て、かぐやの時と同じくらいびっくりしてしまいました。かごいっぱいの大判小判は、かぐやを抱えてきた時よりも大量でした。

「まあ、まあ。これを一体どこで?」

トツは目の前の財宝を見ながら、おろおろと慌てることしかできません。ケンゾーに促されて、小判の山をひとすくいしてみました。小判に触れる手は大きく震えています。

「すごいじゃろう。竹やぶで見つけたんじゃよ」

「でも、こんなにたくさん。誰かの落とし物なのではないですか? 誰か、探しに来たりなんてことは」

うきうきするケンゾーに対して、トツは不安そうです。そこへちょうどかぐやが帰ってきて、小判の山を見つけました。

途端にかぐやの顔が輝いたのを、ケンゾーもトツもはっきりと見ました。

「お金だわ! おほしさまが願いを叶えてくれたのよ! おほしさま、どうもありがとう!」

村で覚えてきたのでしょう。歌をくりずさみながら、その場でぴょんぴょんと踊り出しました。

その姿は、あまりにも幸せを爆発させていました。かぐやには何か不思議な力があって、周りの人も笑顔にさせてしまいます。彼女の踊りを見ているうち、ケンゾーもトツも、心の中にあった心配事など吹っ飛んでしまいました。

「着物だ! 新しい家も建てられるかもしれないぞ!」

一家は大声を上げて喜びを分かち合いました。