月に帰らない、かぐや姫

Episode2  女の子

ケンゾーは、何年経っても貧乏なままでした。

母親が死んでしまい、村のトツという女の子と結婚し、父親が死んでしまっても、貧乏なままでした。夫婦の間に子どもは授からなかったし、仮に授かったとしても、子どもを育てていく余裕はないように思えました。

父親から継いだ畑は土地がやせていて、細い大根やちょっとした葉物しか、育てることができません。他の家の野菜が太っていて見た目も良いので、ケンゾーの育てた野菜には、一度も良い値がついたことがありませんでした。

二人は細々とした暮らしをし、「仕方ない、おれたちは貧乏なんだから」と言い聞かせました。

ケンゾーは、家の周りの畑を耕すよりも、山へ行って枯草や枝を切り、薪として売った方が、多少は稼ぎが良いことを発見しました。それで、痩せた畑は自分たちが食べる分だけ手入れすることにして、山へ芝刈りに行くのを増やしました。

「じゃあ、今日も行ってくるよ」

「行ってらっしゃい。無理はしないでくださいね」

トツは、いつも優しくケンゾーに接しました。それは初めて会った時からずっと変わりませんでした。

ケンゾーはかごを背負い、トツが握ってくれたおにぎりを持って、どっこいしょと土間を出ていきます。

気づいた頃には、二人ともかなり年をとっていました。ケンゾーは何をするにも動作がゆっくりになった気がするし、トツの髪は真っ白です。そして二人とも、継ぎのあたった着物を大切に着ていました。

ケンゾーはゆっくりと家を出て、家の裏手にある山の斜面を上っていきました。

森の中は静かです。よく晴れた日で、どこかから鳥の声がしました。何年も家と森とを行き来しているうちに、いつも通る場所には獣道ができています。ケンゾーは足を滑らせないようにゆっくり、ゆっくりと斜面を登りながら、よく燃えそうな枯草や枝を探しました。

太陽は、もう頭の上を過ぎています。ほとんど収穫がないまま、いつも来るあたりまで上ってきてしまいました。ケンゾーは近くに岩を見つけると、そこに座ってトツの作ってくれたおにぎりを食べました。

そして考えました。

ああ、今日はほとんど何も見つけられなかった。こんなに少なくては商品にならないし、もうものを買う余裕がない。おれはなんて不幸なんだろう。子どもの時からそうだ。

お前は貧乏だ、と言われたあの時から。

いや、気の滅入ることを考えては辛くなる。別のことを考えよう。もしお金がたんまりあったら何をしたいだろうか。

もしも裕福なら、トツに新しい着物を買ってやりたいな。毎日違う、豪華な柄の着物を着せる。裕福さは関係ないけれど、やはり子供がいるととても楽しいのじゃないだろうか。他には……。

ケンゾーはため息をつきました。何か楽しくなることを考えたかったのですが、いくら「もしも裕福だったら」という妄想をしても、それが現実にならないだろうことは百も承知なのです。どんどん虚しくなっていくばかりでした。

「……座ってしょぼくれていても仕方がないな。もっと奥まで進んでみるか」

重い腰を上げました。

枯草や枝を集めるために、ケンゾーは何年も何年も、村を囲む山のあちこちを歩きまわっていました。それで、このあたりの地形には人一倍詳しいという自負がありました。

しかし、獣道が途切れた先の斜面をまっすぐ登っていった時、びっくりしてしまったのです。

「こりゃ、なんということじゃ」

思わず感嘆の溜め息が洩れます。

ケンゾーの目の前には、青く茂る竹やぶが広がっていました。そよ風にも葉が揺れて、さわさわと優しい音を立てています。ここには特に静かな空気が流れているように感じられました。

足元には、よく燃えそうな枯草がたくさんありました。それでケンゾーはそれらを刈りながら、気づいたら竹やぶのずいぶん奥まで進んでいったのです。

すでに日が傾いていました。森の中はすぐに暗くなります。ケンゾーは空を見上げて、もうそろそろ帰ろうと思いました。

その時、視界の隅に金色の光が映り込んだのです。

「なんだろう」

ケンゾーは辺りを見回しました。

空はどんどん赤くなり、夜が近づいてくるというのに、竹やぶの奥から昼間のような光が差しこんできます。まるで太陽がすぐ近くに落ちてきたかのような明るさでした。

ケンゾーは手で目元をかばいながら、光のさしてくる方へ進んでいきます。いよいよ光の源までたどり着いた時、思わず動けなくなってしまいました。

光の源には、ひときわ巨大な竹があったのです。その根本が金色に光って、辺りを照らしているのでした。それはまばゆいばかりの光で、まっすぐに見ていられないほどです。

「こりゃたまげた。おれは夢でも見ているんだろうか」

我に返り、恐る恐る巨大な竹に近づいてみます。そっとその表に触れてみると、何のことはない、手触りは普通の竹と一緒です。ただ竹の内側から光が洩れているのです。

何か、この中に特別なものが入っている気がする。

ケンゾーは手に持っていた鎌をしまい、いつも念のため持ち歩いているこぶりの斧を取りました。竹を切るには力不足かもしれませんが、この際、この竹を割ったことで斧が壊れても良いとさえ思いました。

太い竹は思ったより簡単に切れました。さらに眩しい光があたりに広がり、ケンゾーは目を覆いました。

光で眩しい中に、赤ん坊の泣き声が響きました。

はっと息を呑んで、声の出所に顔を向けます。すると光る竹の中に、たくさんの金色に光る小判と、とても美しい赤ん坊が入っていたのです。

「こりゃたまげた……」

ケンゾーは、それ以外に何も言葉を思いつきませんでした。キツネに化かされているのかもしれない、頬をつねりましたが、ちゃんと痛みを感じました。それからつつくように小判に触れてみます。

そして赤ん坊をそっと抱き上げました。

赤ん坊は女の子でした。すでに、きちんとおくるみに包まれています。おくるみはケンゾーが見たこともない、つるりとした肌触りの布でできていました。ケンゾーには分かりませんでしたが、これは絹でした。

「とんでもないものを見つけてしまった。早く帰って、トツに」

女の子を取りあげた途端、竹は光を消していました。辺りがすでに暗くなり始めていることに気づきます。

ケンゾーは慌てて小判をかごにつめ、女の子を抱いて山を下りていきました。