月に帰らない、かぐや姫

Episode12  月の約束

「かぐや、おいかぐや」

「あっ!」

かぐやははっと我に返りました。まだ呆然としたまま辺りを見回すと、ケンゾーがかぐやの肩を支えてくれています。心配そうな顔をしていました。

「こんなところで倒れて。一体どうしたんじゃ。うたた寝にしても、ここでは風邪をひいてしまうじゃろう」

気遣わしげな声を聞いているうちに、かぐやは自分の意識がここへ戻ってくるのを感じました。まるで熱中して読んでいた物語の世界から、現実へ引き戻されたような感じです。

けれど、今心に浮かんだすべてのことは、決して夢物語などではありませんでした。かぐやにはそれが分かりました。あの出来事はすべて、確かに存在した過去の出来事なのです。そしてあの過去があるからこそ、かぐやはここにいるのです。

ケンゾーの顔を見ているうち、目頭が熱くなってくることに気がつきました。こらえようとする間もなく、かぐやはしくしくと泣きだしてしまいました。

「かぐや!」

ケンゾーはぎょっとした顔をしました。怖い夢でも見たのかと思いますが、そう尋ねても、かぐやはただ泣きながら首を振るばかりです。

心配になって、トツを呼びよせました。

「まあまあかぐや。もう大丈夫よ。何か悲しいことがあったのね」

トツは泣いているかぐやを見るなり、優しく抱きしめて頭を撫ではじめました。しばらく温かい手に触れられているうち、かぐやのしゃっくりも収まってきました。

「……ごめんなさい。取り乱してしまって」

少し落ち着いてきたかぐやは謝りました。ケンゾーとトツはかぐやが心配なばかりで、まったく機嫌を損ねたわけではありません。二人はなぜ泣いていたのかを、かぐやに尋ねました。

かぐやはこの言葉を口にする時、やはり少しためらいました。

「……お父さんとお母さんは、私の本当の両親じゃないのね。私、どこかから拾われて来たんでしょう」

かぐやがそう言った時、ケンゾーとトツは黙り込んでしまいました。肯定も否定もできません。彼女を竹やぶから拾ってきたことは、今の今まで秘密にしていたのです。

かぐやは淡々と続けました。

「私、思い出してしまったの。私が本当は誰なのか。私は月の国に住んでいたお姫様で、でも、禁じられていても、地球が好きだった。だから罰としてここへ送られてきたの」

そうして、脳裏に浮かんだ過去の記憶をすべて二人に話しました。月の世界の自分はルチェアという名で、こっそり地球のものを集めていたこと。月の世界では、地球を下等な星とみなし、興味を持つことすら禁じられていること。かぐやはその禁を破り、こっそり地球へ渡ったこと。それがばれてしまい、罰として地球で生きることを強いられたこと……。

「そしてね、私が十分に罰を受けただろうと思った頃に、月からお迎えが来ることに決められていたの。普通ならば地球に生まれ変わらせて放っておくところだけど、私はただ一人の王位継承者だから、ずっと放っておくわけにはいかないって」

かぐやが口をつぐんだ後、部屋にはとても空虚な静寂が流れました。ケンゾーとトツはただ座ってかぐやのことを眺めていました。急にわっとトツが泣きだしました。

「かぐやが! 大切に育ててきた娘が! 本当は月に住む姫君だったなんて! やっぱりわたしたちの子にはできないのだわ! ああああああ」

「トツや……」

ケンゾーが泣きじゃくるトツの背中をさすりました。伏せた目には涙が浮かんでいました。

かぐやもまた泣きだしていました。ケンゾーとトツにひしと抱きつきます。

「私、ここが好き。二人は私のお父さんとお母さんだわ! 血がつながっていなくたって、そんなの私は気にしない。私、ずっとここにいたいわ!」

けれどかぐやが過去の出来事を思い出したことは、まったくの偶然ではありませんでした。

月の世界では、折しもかぐやを迎えに行く計画が立ち上がりかけていたのです。