月に帰らない、かぐや姫

Episode1  竹取の翁

昔むかし、あるところに……と始まるのがむかしばなしの通例ですが、これは「昔むかし」よりも、もう少し昔の話。

山奥の小さな村に、ケンゾーという名前の男の子が住んでいました。ケンゾーは元気いっぱいで、他の子どもたちと楽しく遊んでいたのですが。

「おい、みんな! ワタも仲間に入れてやろうぜ」

ケンゾーは小さいワタの手を引いて、遊びの輪に入っていきます。ワタは、いつもは別の子どもたちと遊んでいるのですが、年上の子たちがやっている遊びが魅力的に見えてしかたなかったのです。ケンゾーは心優しい男の子でしたので、ワタの願いを知って、自分たちの遊びに混ぜてやろうと思いました。

「なんだと。これは年かさの子だけの遊びだ。おまえは一緒に遊べないよ」

しかし、他の子たちは意地悪でした。駄目だ、駄目だと言い募り、ついにワタは泣きだして帰ってしまいました。

ケンゾーはワタの肩を持ちました。

「どうして一緒に遊ぼうとしないんだ」

「うるさい!」

突き飛ばされて、ケンゾーは尻もちをついてしまいます。友達を見あげると、彼らはケンゾーを取り巻いて、見下すように笑っています。今まで友達からそんな目を向けられたことがなかったケンゾーは、驚くと同時に怖くなってきました。

友達の一人が言います。

「やい、ケンゾー。おれは前からおまえがいけ好かなかったんだ。今まで優しくしてやっていたが、もう勘弁だ。お前とは一緒に遊ばない」

「どうして! どうして急に」

ケンゾーは座りこんだまま、前かがみになって聴きました。取り巻きの一人がケンゾーをあざ笑いました。

「おれたちはな、お前みたいな貧乏人とは一緒にいないことにしたんだよ。自分にふさわしい、裕福な家の子とだけ遊ぶんだ」

もう一人の取り巻きが頷きました。

彼らは自分たちで決めたことのように言いましたが、本当は彼らの両親が、三人にそうするようにと言ったのです。

「一緒にいると貧乏がうつるんだよ!」

「やーい貧乏!」

「嫌だ嫌だ!」

馬鹿にして笑いながら、さっきまで友達だった三人は行ってしまいました。

ケンゾーは一人で家に帰りました。

「おとう。ビンボーって何なんだ?」

ケンゾーは、父親に尋ねました。急にそんなことを聞かれて、父親はびっくりした顔をしました。それで聞き返します。

「……どうして、急にそんなことを言うんだね」

ケンゾーは今日あったことを話しました。お前は貧乏人だから、もう遊ばないと言われたのだと。

かまどの方から、鼻をすする音が聞こえてきました。母親が泣いていました。

父親も泣いていました。

そして体を震わせながら、「ケンゾー、ごめんな」と言うのです。

「ごめんな。おれたちが貧乏なばっかりに。そんな思いをさせて……!」

「どういうことだ? 貧乏ってなんなんだ?」

ケンゾーはすっかりわけが分からなくなってしまいました。そして何も分からないまま、なんだか怖くなってきました。

両親は気持ちを落ち着かせると、貧乏とはどういうことなのかを説明してくれました。

「お父とお母には、あまりお金がないんだよ、ケンゾー」

「土地がやせていて、野菜があまり育たないんだ。だから、たくさんのものを買うお金がない。……それが貧乏ということさ」

二人の口調は沈んでいました。話を聞きながら、ケンゾーは、二人がよく「お金がない」とぼやいていることを思い出しました。

ケンゾーはその時強く感じたのです。

そうか。うちは貧乏なんだ。