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皇月ノエルはこんな人

光と音に敏感な「繊細さん」(HSP)。小説家をしています。
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↓こんな感じの作品を書いています。
すべて短編です↓
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「第17回星の砂賞」審査員奨励賞受賞作「紙の森」
――悲しみから、朝が芽生える。
「ハナビシソウ」
――知らなかった。先祖が僕を見守っているなんて。
「もがり」
――これだけは覚えておいてね。私が、ずっと君を好きだっていうこと。
星の彼方から君を愛す
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淀む川と流れる人々【西條奈加『心淋し川』感想&考察】

小説 -novels-
Image by bananajoe87 from Pixabay

こんにちは。皇月ノエルです。

 

直木賞受賞作、西條奈加さん著『心淋し川』(集英社)を拝読しました。

今回は物語の核心に迫るネタバレは含まないつもりです。

が、神経質な方はご注意の上でお読みくだされば幸いです。

 

感想と考察など

『心淋し川』を読むきっかけ

私は普段、時代小説をあまり読みません。

もしかすると、小学生の時に読んだ『名探偵夢水清志郎事件ノート外伝』上下巻が最後かも……?

私は独特な読み方をする、漢字の名前や地名がとても苦手。

ですので日本を舞台にした作品に、なんとなく苦手意識を持ってしまっているのです……。

 

今回、『心淋し川』を読もうと思ったのは、直木賞を受賞するという大きな評価を得た作品だから。

どこが、どういう風に評価されたのだろう?

どんなところが面白いのだろう?

 

候補になった『オルタネート』とは、どう違うのかな?

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そんな動機で読み始めたのです。

 

時代モノ初心者でも気軽に読める!

漢字にほどこされた配慮

『心淋し川』は、江戸を舞台にした群像劇。

やはり「千駄木町」とか「根津」とか、漢字の地名が並びます。

けれど、最初に地名が登場する時にルビが振られているので、「これ、なんて読むんだっけ?」となった時には、最悪ページを戻れば良いから安心。

また、主人公の名前に平仮名が多いので、覚えやすく、スムーズに読むことができました。

 

男性の名前には漢字も登場しますが、こちらも初登場時はルビが振られているうえ、それほど難しい読み方をする人はいません。

「あれ、なんて読むんだっけ……?」と思うことがあっても、文字の通りに読めばだいたい合ってる。
とってもありがたい名付け方です。

 

現代語と江戸ことばの両立

「おれは○○ってえんだ」的な、江戸っぽい言葉が随所に登場します。

でも、決して読みづらさの原因にはならない。すごいことだと感じます。

江戸時代ならではの言い回しや物の名前が出てきても、言葉自体の意味が分からないことはない。

だからこそ、気持ち的なつかえがなく、スムーズに読み進めることができるのです。

おまけに、ちゃんと話の内容も頭に入ってくる。

 

私はこういう、時代考証が必要そうな物語の時には考えてしまうのですが……。

舞台とする国を問わず、時代モノを書く作者さんってすごく勉強すると思います。

矛盾が出ないようにしなければならないし、文章で「当時の世界観」「当時の文化」を匂わせなければなりません。

匂わせるって難しくて、知識を頭に入れるだけではできない。

それを消化し、自分のモノにして初めてできることではないでしょうか。

作者さんは調べる上で、「その時代に詳しい人」になるのです。

ところが、ここで問題が起きることもあります。

自分が詳しくなったあまり、専門用語的な言葉を多用してしまう可能性が生まれるのです。

得た知識って、どこかで披露したくなるもの。

詳しい人にとっては「よく練られてるな」「勉強してるな」となるのでしょうが、あまり詳しくない人にとっては苦行の物語が生まれてしまいます。

難しすぎず、けれどちゃんと勉強した上で、世界観を作りあげる。

そのバランスは難しく、客観的な目を持つ必要のある作業ではないでしょうか。

私にとってはなかなかできることではなく、よく「あ、調べたことそのまま書いちゃってる」と気づくことがあります。

だからこそ、知識と間口の広さを両立している人を見ると「すごいな」と思うし、知識と読みやすさのバランスに目がいくのです。

 

+αの知識があれば……

文中に程よい注釈が差し込まれているとはいえ、やはり舞台は江戸。

私にとっては馴染みのない職業名や道具の名前など、知識不足のものも登場していました。

分からなくても読み進めることはできます。

でも、詳しい人、物の名前を聞いただけで「ああ、あれのことね」とピンとくる人が読めば、もっと面白いに違いない。

そう思うと口惜しかったです。

『心淋し川』から範囲を広げて、江戸のことも勉強してみようかな……などと思っています。

 

スマートな展開と共感の両立

読み始めてから気づいたのですが、『心淋し川』は群像劇です。

各章に主人公がおり、それぞれの物語は40数ページで構成されています。

だからこそ、「起承転結」の展開が非常にスムーズ。

「起承」まで読んだと思ったら、目まぐるしく「転」にさしかかり、物語が「結」ばれる。

密度の濃いお話を読ませていただいたと感じます。

 

そう、密度。

「ほんの」40数ページではないのです。

「濃い」40数ページの物語が展開されています。

 

それぞれの主人公たち、そして主人公を取り巻く人々には、各々の過去や心に留まっていること、わだかまりなどが存在します。

それらの過去に紐づいた情動が、非常に共感しやすい形で描かれているのです。

登場人物たちの過去が、限られたページ数の中でも強い共感を呼び起こします。

第一章を読んでいるときなど、たったの6行で、主人公と長年一緒に暮らしてきたような錯覚を味わいました。

言葉が厳選されているというか、研ぎ澄まされているというか。

言葉運びのセンスとでも呼ぶべきものを感じました。

 

過去と現在、変わらないもの

『心淋し川』を通して、江戸に暮らした人々の生き様や、様々な感情、暮らしを疑似体験したような気分です。

着物を着るのが当たり前で、身分や家柄を今以上に気にする世界。

現代とはまったく違うところも多くありますが……共通することも見つけました。

人の感情です。

親から子、子から親、男性から女性、女性から男性――。

いろいろな人が、いろいろな人に向けた感情や思いは、決して物語の中のものに見えませんでした。

現代にも通じる、「こういう人、いるな」と思わせられるものだったのです。

 

現代を舞台にして描けば、身近すぎて痛いことも、
舞台とする時代や場所を変えれば、程よい距離感を持って見つめられる場合があります。

 

『心淋し川』も、普段の自分たちを少し客観視されてくれる機能を持つ物語なのかな、と思いました。

 

 

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